いつもめっき屋営業マンのブログをご覧いただきありがとうございます。
今回は弊社でも良く取り扱っている高周波焼入れについてのお話です。
高周波焼入れをご紹介するにあたり、鉄の性質や熱処理についても説明をしています。
目次
- 鉄の性質について
- クロムめっきの意外な弱点
- 高周波焼入れとは
- 高周波焼入れの注意点
- まとめ
鉄の性質について
鉄の性質について
鉄鋼材料に含まれる鉄には熱処理によって性質が変わるという特徴があります。
熱処理とは、金属を加熱し冷却することで素材の特性を変化させ、硬さや粘りを持たせる処理方法です。
金属加工では製品の使用する目的に応じて「焼入れ」や「焼き戻し」などの様々な熱処理が行われていることはご存じですか?
鉄の性質は熱処理の冷やし方で決まる
鉄は室温では結晶構造が体心立方格子のフェライトですが、温度を上げると面心立方格子のオーステナイトに結晶構造が変わる性質があります。
この結晶構造が変わることを変態といいます。
純鉄の構造変化はフェライトとオーステナイトのみですが、鉄と炭素の合金である鋼は、オーステナイト域まで加熱した後に冷やし方を変えることで様々な組織変態が起こります。
すなわち鉄鋼材料は炭素の量と熱処理で組織・性質が大きく変化する素材です。
金属加工では材料を加工しやすくするために熱処理で柔らかくしたり、使用時の耐久性を上げるために熱処理で硬くしたりと目的や用途により様々な熱処理をおこないます。
一般的熱処理の種類
熱処理は加熱温度とその後の冷やし方により、種類が分かれます。
焼きなまし、焼きならし、焼入れ、焼き戻しといった熱処理の方法は一般的熱処理と呼ばれます。
ただし、焼入れと焼き戻しに関しては焼入れとセットでおこなうため、調質(焼入れ・焼き戻し)という名称の方が一般的かもしれません。
【焼なまし(焼鈍) Ⓐ】
鉄又は鋼の軟化、結晶組織の調整、内部応力の除去等を目的とした総称を焼なましもしくは『マルA』と言います。
オーステナイト化温度以上に加熱後、炉内冷却する熱処理方法です。
焼きなましには種類があり、一般的には完全焼きなましのことを焼きなましと呼んでいます。詳細については割愛します。
オーステナイト化温度以上に加熱後、炉内冷却する熱処理方法です。
焼きなましには種類があり、一般的には完全焼きなましのことを焼きなましと呼んでいます。詳細については割愛します。
【焼きならし Ⓝ】
焼ならしのことを『焼準』『マルN』『ノルマ』とも呼びます。
鋼をオーステナイト化温度以上に加熱後、自然空冷又は強制空冷する熱処理方法です。
この処理を鋼の正常化とも言っており、その組織は標準組織とも言われます。
鋼をオーステナイト化温度以上に加熱後、自然空冷又は強制空冷する熱処理方法です。
この処理を鋼の正常化とも言っており、その組織は標準組織とも言われます。
【調質(焼入れ・焼戻し) Ⓗ】
焼入れ・焼戻しのことを『調質』や『Ⓗ(マルH)』とも呼びます。
焼入れとは炭素が一定以上含まれる鋼をオーステナイト化温度以上に加熱し、急速冷却することにより鋼の硬度を上げる熱処理方法です。
しかし非常に硬いが故に脆いという特徴があります。
焼戻しとは金属を「粘り強く」する熱処理方法で焼入れ後、焼戻しを行うことにより、硬度が低下する代わりに靭性が高く、引張強度、耐力、伸び、絞り、衝撃等 の機械的性質が向上し、硬くて粘り強い鋼となります。
焼入れとは炭素が一定以上含まれる鋼をオーステナイト化温度以上に加熱し、急速冷却することにより鋼の硬度を上げる熱処理方法です。
しかし非常に硬いが故に脆いという特徴があります。
焼戻しとは金属を「粘り強く」する熱処理方法で焼入れ後、焼戻しを行うことにより、硬度が低下する代わりに靭性が高く、引張強度、耐力、伸び、絞り、衝撃等 の機械的性質が向上し、硬くて粘り強い鋼となります。
以上のように熱処理には種類があり、目的や用途により鉄鋼材料に最適な熱処理を選定することにより、製品の機能を上げることができます。
クロムめっきの意外な弱点
クロムめっきとは素材の表面にクロム金属皮膜を付与する技術
熱処理が鉄鋼素材の結晶構造を変え、その機能に影響を与えることは先ほど説明しましたが、クロムめっきも鉄鋼材料表面にクロム金属皮膜を付与することで、硬さや耐食性が向上するなど様々な機能を得ることができる技術です。
詳しくはクロムめっきについてのページをご覧ください。
クロムめっきは素材表面を硬くすることで部品の摩耗や傷防止に優れた効果を発揮しますが、その一方で強くニップするような使用方法ではその機能を十分に発揮できない場合があります。
クロムめっきをしているのに母材が凹んだ
「クロムめっきをしているのに表面が凹んだ」それが理由で表面を修理するケースは意外とあります。
クロムめっきをしていると表面が硬いので強くニップさせたり、ものを挟み込んでしまっても多少は大丈夫なんじゃないかと思うかもしれませんが、凹む時は凹みます。
過去にあった事例ですが、新品で納めて使用して1週間ほど経った頃に固まった樹脂を挟みこんだことにより冷却ロールが凹んだということがありました。
これですが、厳密にはクロムめっきが凹んでいるというよりかは母材から凹んでしまっていいます。
どういうことかというと、クロムめっきは非常に硬い皮膜ですが、その膜厚は30~100μと母材に比べると圧倒的に薄いので母材が柔らかいと一緒にクロムめっきも凹んでしまうわけです。
クロムめっきは摩耗性には優れていますが、外圧については母材そのもの次第なところがあります。
これがクロムめっきの弱点で、クロムめっきの効果を最大限発揮するなら母材の選定や母材の機能性も上げる必要があります。
上記の理由でニップなどの外圧がかかる場合は、調質(焼入れ焼き戻し)を熱処理としておこなうことがありますが、
最も良く行われる表面硬化法が「高周波焼入れ」です。
高周波焼入れとは
高周波焼入れは熱処理の一種
高周波焼入れとはコイル等を用いて高周波誘導加熱で焼入温度まで加熱して水又は水溶性焼入液で焼入する熱処理方法です。
一般的に焼戻し温度は 150~300℃程度でおこなわれます。
高周波焼入前処理として調質もしくは焼なましなどの熱処理をおこなうことが推奨されています。
高周波焼入れの特徴
①調質(焼入れ・焼き戻し)よりも高い硬度が得られる
S45Cの調質後の硬度がHRC14~28程度なのに対して高周波焼入れ後の硬度はHRC53~59とはるかに高い硬度が得られます。②表面のみが硬化する
加熱コイルにより表面のみを焼入れするため、表層の3mm前後に焼入れが入ります。クロムめっきだと0.03~0.1㎜程度の厚みなので十分な厚みを硬化させることができます。
③必要部位にだけ処理ができる
必要部位にだけ熱処理ができるので内部は靭性を兼ね備えたまま、耐摩耗性を上げることが可能です。
また酸化スケール(いわゆる黒皮)がでないのでその後の加工性も良いです。
一般的な熱処理だとロール内部にまで酸化スケールが発生します。
高周波焼入れの注意点
焼入れとの混同に注意
高周波焼入れのことを焼入れと呼ぶと調質(焼入れ・焼き戻し)と混同してしまい、どちらの処理を施工しないといけないかわからなくなってしまいます。高周波焼入れを施工したい場合は、高周波焼入れと必ず正式名称を使用するか、目標とする焼入れ後の硬度を明確にしましょう。
加工に関する注意(材質、取り代、深さ)
硬くなりにくい材質も存在する
なんでもかんでも硬くなるわけではありません。鉄と炭素の関係性が重要となります。
炭素量が少ないとそもそも硬くなりにくいので高周波焼入れに適した材質を選ぶ必要がありますが、硬さを優先すると逆に溶接性が悪くなるなどその他の加工性に影響が出るので用途だけでなく、加工性も考えての材料選定が必要です。
焼入れ深さは取り代に影響する
また一般的熱処理と比べて処理範囲は部分的ですが、それでも熱処理によるひずみは発生します。せっかく高周波焼入れしたいのでなるべく硬化層は残しておきたいところですが、ひずみで変形する分を取り代(削り代)として処理後に削りとってしまうので必ずしも高周波焼入れ後の焼入れ層の深さが完成後の焼入れ層の深さと一致するわけではないことを理解しておいてください。
まとめ
✓鉄鋼材料は炭素の量と熱処理で組織・性質が大きく変化する素材です。
✓熱処理には種類があり、目的や用途により鉄鋼材料に最適な熱処理を選定することにより、製品の機能を上げることができます。
✓高周波焼入れはコイル等を用いて高周波誘導加熱で焼入温度まで加熱して水又は水溶性焼入液で焼入する熱処理方法で、熱処理をした表面のみを硬化させます。一般的熱処理と比べてかなり硬くなります。
✓クロムめっきする表面に高周波焼入れも施工することで素材そのもの機能を高め、クロムめっきの効果を最大限発揮することが可能です。
いかがだったでしょうか?
クロムめっきは鉄鋼材料の熱処理と組み合わせることでより優れた機能を発揮する表面処理です。
ちなみにですが、話の途中で出てきた使用開始して1週間程度でロール表面が凹んだという事例はその後、高周波焼入れとクロムめっきを施工したことで樹脂を挟み込んでも傷が入らないようになりました。
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